「あれ、金庫の中身、帳簿より500円多くないですか?」総務の後輩からそう声をかけられたのは、月末の実査の日でした。レシートを1枚ずつ確認していくと、数か月前に精算し忘れていた立替分が引き出しの奥から出てきて一件落着。原因が分かってホッとした一方で、「毎月こんな時間をかけて現金を数えて、差異があれば原因を探して…この作業、本当に必要なんだろうか」と、ふと思ってしまったのを覚えています。
小口現金は、切手代や来客用のちょっとしたお菓子代、宅配便の着払い代金など、少額かつ突発的な支払いに現金で対応できる便利な仕組みです。ただ、実際に運用してみると、現金を金庫で保管することによる盗難・紛失のリスク、月次や週次で行う実査の手間、そして立替精算のたびに発生する「いつ・誰が・何のために使ったか」を確認する作業など、地味に負担が積み重なっていく業務でもあります。
私が勤めている会社でも、キャッシュレス決済や法人カードでの経費決済、振込での精算への移行が進んだことをきっかけに、小口現金そのものを廃止しようという話が持ち上がりました。今回は、実際に小口現金の廃止を検討・実行する立場で経験した、実務上の注意点を整理してみたいと思います。会社の規模や業種、取引先の事情によって最適な運用は異なりますので、あくまで一つの参考として読んでいただければと思います。
小口現金を廃止する前に整理しておきたいこと
現金でしか対応できない支払いが本当にないかの洗い出し
小口現金を廃止すると決めた際に、まず着手したのが「現金でなければ支払えないものが、本当に存在しないか」の洗い出しです。日常的な経費の多くは法人カードや振込に置き換えられますが、拠点によっては、近隣の商店での少額購入や集金・着払いなど、相手側が現金しか受け付けていないケースが残っていることがあります。
こうした支払いを事前に洗い出さずに廃止を進めてしまうと、現場の担当者が「結局どうすればいいのか分からない」という状態になり、個人の財布から立て替えて後で精算するという運用に戻ってしまいがちです。数か月分の支払い実績を遡って確認し、現金払いの発生頻度や金額感を把握したうえで、廃止後の代替手段(法人カード、事前の振込手配、少額であれば個人の一時的な立替と後日精算など)を一つひとつ当てはめていく作業が欠かせないと感じました。
廃止後の立替・精算ルールの明文化と周知
現金でしか対応できない支払いへの代替手段が固まったら、次に重要なのが、廃止後の立替・精算ルールを文書として整理し、社内に周知することです。「小口現金を廃止します」という案内だけでは、現場の担当者は「では急な出費が発生したときはどうすればいいのか」が分からず不安になります。
具体的には、立替が発生した場合の申請方法、精算のサイクル(週次なのか月次なのか)、振込までにかかる日数の目安、領収書やレシートの提出方法といった点を、簡単なマニュアルやフローにまとめておくと、問い合わせの数を大きく減らせます。会社によっては、精算の頻度や上限金額の設定などルールの詳細は運用しながら見直していく形になるかと思いますので、最初から完璧を目指すよりも、まずは基本的な流れを共有することを優先した方が現場も動きやすいように感じます。
移行時期の混乱を防ぐための工夫
運用開始日を明確に決め、現金と新ルールを混在させない
廃止の準備が整っても、実際の切り替えのタイミングを曖昧にしてしまうと、現場では「まだ小口現金が使えると思っていた」「もう使えないと聞いていたので立替えた」といった認識のズレが生じます。私の会社では、月初を運用開始日として明確に定め、前月末までに残っている小口現金は指定日までに精算・返金してもらい、それ以降は一切現金を使わないという線引きをはっきりさせました。
中途半端な移行期間を設けて「困ったときだけ現金も使ってよい」という運用にしてしまうと、結局いつまでも小口現金が完全にはなくならず、廃止した意味が薄れてしまいます。多少現場から不便だという声が出ることは想定したうえで、切り替えの日を区切ることが、結果的にはスムーズな移行につながったという印象を持っています。
証憑の電子化ルールと合わせて整理する
もう一点、廃止のタイミングで見落としがちなのが、領収書やレシートといった証憑の取り扱いです。現金精算がなくなり、法人カードでの決済や振込精算が中心になると、証憑の受け取り方や保存方法も変わってきます。電子帳簿保存法など証憑の電子化・保存に関するルールとあわせて、スキャンして保存するのか、原本を提出してもらうのか、決済明細と証憑をどう紐づけて保管するのかといった点も、この機会に社内ルールとして整理しておくと、後々の経理処理や税務対応がスムーズになると感じました。この部分は会社によって採用しているシステムや保存方法が異なるため、自社の状況に合わせた運用を検討する必要があります。
小口現金の廃止は、単に金庫をなくすという話ではなく、支払い方法・精算ルール・証憑管理という三つの仕組みを同時に見直す機会でもあります。焦って一気に進めるよりも、順番に整理しながら進めていくことが、結果的には現場の混乱を防ぐことにつながると感じています。
- 現金でなければ支払えないものが本当に残っていないか、事前にしっかり洗い出す
- 廃止後の立替・精算ルールを簡単なマニュアルにまとめ、社内に周知する
- 運用開始日を明確に決め、現金と新ルールが混在する期間を作らない
- 電子帳簿保存法など証憑の電子化ルールともあわせて、保存方法を整理する
- ルールの細部は運用しながら見直す前提で、まずは基本的な流れの共有を優先する
小口現金の廃止は、実査や現金管理の手間がなくなるという分かりやすいメリットがある一方で、進め方を誤ると現場に混乱を招きかねない取り組みでもあります。自社の支払い実態を丁寧に洗い出しながら、無理のないペースで進めていただければと思います。
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