「これ、去年の請求書ですよね。まだファイリングしてないんですか?」経理担当のスタッフからそう聞かれて、思わず苦笑いしてしまったことがあります。総務の机の脇には、契約書や申請書、請求書控えなどがひとまとめになったクリアファイルが何冊も積み上がっていて、いつか手が空いたら整理しようと思いながら、結局その「いつか」がなかなか来ないまま月日だけが過ぎていく。心当たりのある方も多いのではないでしょうか。
紙の書類は、届いた瞬間は「あとで処理すればいい」で済んでしまうのですが、積み重なると一気にやっかいな存在になります。必要な書類を探すのに時間がかかったり、内容を手入力してシステムに登録する作業だけで午後の半分が終わってしまったり。私自身、入社時の契約関係書類や日々の請求書処理で、同じような手入力作業を繰り返していた時期がありました。
そんなときに耳にしたのが、AIを活用したOCR(光学文字認識)ツールです。以前のOCRは活字でも読み取りミスが多く、あまり期待していなかったのですが、最近のものは手書き文字や項目が複雑に並んだ帳票でも、かなり高い精度でデータ化してくれると聞き、実際に試してみることにしました。今回は、その導入・運用を通じて感じた、総務としての実践ポイントを整理してみたいと思います。
OCR導入前に整理しておきたいこと
データ化したい書類の種類と量を洗い出す
最初につまずきやすいのが、「とりあえず全部の紙をデータ化しよう」と意気込んでしまうことです。契約書、請求書、申請書、名刺、勤怠関連の紙記録など、総務が扱う紙書類は種類も量もさまざまで、いきなり全部を対象にすると、フォーマットの違いに読み取り設定が追いつかず、かえって手間が増えてしまうことがあります。
私が実際にやってみてよかったのは、まず「毎月一定量が発生し、書式がある程度そろっている書類」から着手することでした。たとえば請求書や定型の申請書は、レイアウトのばらつきが少なく、精度も安定しやすい傾向があります。逆に手書きの自由記述が多い書類や、年に数回しか出てこない書類は、後回しにしても支障が少ないと感じています。
費用対効果が見込める範囲からスモールスタートする
ツールの導入には、多かれ少なかれ費用や設定の手間がかかります。そのため、「どの書類を、どれくらいの頻度で、何人が処理しているか」を洗い出したうえで、まずは対象を絞って始めるのが現実的だと感じました。範囲を絞れば、効果測定もしやすくなりますし、うまくいかなかった場合の軌道修正も小さく済みます。
私の場合は、月次で必ず発生する請求書の処理から始め、効果を確認したうえで、少しずつ対象書類を広げていくという進め方を取りました。最初から完璧な仕組みを目指すよりも、小さく試して調整していくほうが、結果的に定着しやすいように思います。
運用を回すときに気をつけたいポイント
読み取り精度を過信せず、目視のダブルチェックを残す
OCRの精度が上がったとはいえ、100%正確というわけではありません。数字の桁が一つずれていたり、印影と重なった文字が誤認識されたりすることは、実際に何度か経験しました。特に金額や日付、取引先名など、間違いが業務に直結する項目については、読み取り結果をそのまま信用せず、必ず人の目でのダブルチェック工程を残しておくことが大切だと感じています。
すべてを目視確認していては効率化の意味が薄れてしまうので、重要度に応じてチェックの厚みを変えるのも一つの方法です。金額や契約条件など影響の大きい項目は必ず確認し、参考情報として扱う項目は軽めの確認にとどめるといった線引きをしておくと、無理なく運用を続けられます。
保存先・検索性をあらかじめ設計しておく
データ化した情報をどこに、どのような形式で保存するかも、事前に決めておきたいポイントです。ファイル名の付け方や保存フォルダの構成がバラバラだと、せっかくデータ化しても後から探しづらく、紙のままファイリングしていた頃とあまり変わらない結果になってしまいます。
また、経理関係の書類については、電子帳簿保存法などの要件と関わってくる場合もあるため、保存期間やタイムスタンプの扱いなど、法令上求められる条件を満たしているかどうかも、担当部署と確認しながら進める必要があります。データ化そのものだけでなく、「その後どう保存し、どう検索できるようにするか」まで含めて設計しておくと、後々の手戻りを防げると感じました。
現場の負担軽減効果を振り返り、対象を広げていく
一通り運用が回り始めたら、実際に入力担当者の負担がどれくらい軽くなったのかを、定期的に振り返る時間を取るようにしています。作業時間が短縮できたのか、ミスが減ったのか、あるいは思ったほど効果が出ていない工程はどこか。こうした振り返りをしないまま放置すると、せっかく導入したツールが一部の書類にしか使われず、宝の持ち腐れになりかねません。
効果が確認できた書類から少しずつ対象を広げていくことで、無理なく適用範囲を増やしていけますし、現場からも「次はこの書類もお願いしたい」といった声が上がりやすくなります。総務が音頭を取りつつ、現場の実感を拾いながら進めていく姿勢が、定着のカギになるように思います。
- まずはデータ化したい書類の種類・量を洗い出し、費用対効果が見込める範囲からスモールスタートする
- 読み取り精度を過信せず、重要な書類は必ず目視でのダブルチェック工程を残す
- 保存先やファイル名の付け方など検索性を事前に設計し、電子帳簿保存法などの要件も確認する
- 現場の負担軽減効果を定期的に振り返り、効果が確認できた書類から対象を広げていく
紙の書類との付き合い方は、総務にいる限りなくなることはないのかもしれませんが、少しずつでも仕組みを整えていけば、確実に日々の負担は軽くなっていくと感じています。焦らず、できるところから一歩ずつ進めていければと思います。


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