賃金台帳・法定三帳簿の整備、総務が押さえるべき基本

人事・労務

「三帳簿って、うちの会社にありますか?」先日、新しく総務に配属されたスタッフからこう聞かれて、一瞬言葉に詰まりました。労働者名簿と賃金台帳はもちろん整備していますが、出勤簿は勤怠システムのログで代用している状態で、「これで法律上の三帳簿として成立しているのか」を改めて説明しようとすると、意外と自分の理解があいまいだったことに気づかされたのです。

労務管理の仕事をしていると、就業規則や36協定のような「制度づくり」の話には注目が集まりやすい一方で、日々の帳簿をどう記録し、どう保存しておくかという地味な実務は後回しになりがちです。私自身、前任者から引き継いだやり方をそのまま踏襲していて、保存期間や起算日といった基本を一度もきちんと確認していませんでした。

ところが、労働基準監督署の調査でまず確認されるのは、まさにこの地道な帳簿類だと聞いたことがあります。制度が整っていても、日々の記録が抜け落ちていては意味がありません。今回は、実務担当者として押さえておきたい法定三帳簿の基本と、保存実務のポイントを整理してみます。

法定三帳簿とは何か、なぜ重要なのか

労働者名簿・賃金台帳・出勤簿の三点セット

労働基準法では、事業主に対して各事業場ごとに「労働者名簿」「賃金台帳」「出勤簿(タイムカード等の記録を含む)」を整備・保存する義務を課しています。これらは総称して「法定三帳簿」と呼ばれ、労務管理の土台となる書類です。労働者名簿には氏名・生年月日・従事する業務の種類・雇入年月日などを、賃金台帳には賃金の計算期間・労働日数・労働時間数・基本給や手当の額などを記載する必要があり、出勤簿では日々の始業・終業時刻や休憩の記録を残しておく必要があります。

臨検調査でまず確認される書類

労働基準監督署が事業場に立ち入って行う臨検調査では、この法定三帳簿が最も厳格にチェックされる書類だと言われています。就業規則や36協定の届出状況とあわせて、実際の労働時間や賃金の支払いが記録どおりに行われているかを、この三帳簿を突き合わせて確認するためです。裏を返せば、日頃からきちんと整備・保存しておくことが、いざというときの説明責任を果たすための最低限の備えになるということでもあります。

整備を怠るとどうなるか

法定三帳簿の不備や記載漏れ、保存義務違反があった場合には、労働基準法第120条に基づき30万円以下の罰金が科される可能性があり、行政指導の対象にもなります。金額の大小よりも、行政指導を受けること自体が会社の労務管理体制への信頼に関わる問題だと感じています。「うちは小さな違反だから大丈夫」と油断せず、日常業務として淡々と整備しておくことが大切だと考えています。

保存期間と実務での運用ポイント

原則5年、当面は3年という経過措置

2020年4月1日に施行された改正労働基準法により、労働関係の重要書類の保存期間は原則として5年間に延長されました。ただし、企業の実務負担を急に増やさないための経過措置として、労働基準法第143条により当面の間は3年間の保存でよいとされています。この経過措置がいつまで続くのかは、現時点では明確に定められていません。

起算日はいつからか

保存期間は「作成した日」から数えればよいと思われがちですが、書類の種類によって起算日の考え方が異なる点には注意が必要です。たとえば労働者名簿であれば、労働者の死亡・退職または解雇の日など、雇用関係が終了した日が起算日となります。賃金台帳や出勤簿についても、それぞれ最後の記入をした日を基準に数える必要があるため、「いつの分から何年何月まで保存しておけばよいか」を書類ごとに一覧化しておくと、担当者が変わっても迷わずに済みます。

将来の5年保存化を見据えた社内対応

経過措置がいつ終了するかわからない以上、社内の保存ルールやデータ管理の仕組みは、今のうちから5年保存に対応させておくことが望ましいとされています。3年基準のまま運用していると、経過措置が終了した瞬間に過去分のデータが不足している、という事態になりかねません。紙で保管している場合は保存期間経過後の廃棄年月をあらかじめ記載しておく、電子データであれば削除フォルダやシステムの自動削除設定を5年基準に見直しておくなど、余裕を持った対応をしておくと安心です。

  • 法定三帳簿(労働者名簿・賃金台帳・出勤簿)は、事業場ごとに整備・保存する義務がある
  • 保存期間は改正法により原則5年とされたが、経過措置により当面は3年(労働基準法第143条)
  • 経過措置の終了時期は未定のため、社内のデータ管理は5年保存を見据えて準備しておくと安心
  • 起算日は書類の性質により異なり、労働者名簿は退職・解雇・死亡の日などが基準になる
  • 不備や保存義務違反には30万円以下の罰金の可能性があり、行政指導の対象にもなる

三帳簿の整備は、制度づくりのような華やかさはありませんが、いざ調査が入ったときに会社の労務管理の信頼度を示す土台になる部分だと感じています。日々の記録を淡々と積み重ね、保存期間や起算日を書類ごとに整理しておくことが、結果的に自分自身の安心にもつながるはずです。

※本記事は一般的な情報の紹介を目的としており、個別の判断については社会保険労務士等の専門家にご確認ください。

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