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月次決算は、毎月まわしているうちに手順が体に入ってきます。ところが年に1回の決算は、そうはいきません。毎年、前年に作った資料を開いて「この数字はどこから持ってきたのか」を確かめるところから始まります。
この記事では、年次決算でやることを決算日の1〜2か月前から株主総会まで、日程の順に27項目に並べたチェックリストを、Excelで配布しています。あわせて、実際にやってみて効いたこと・効かなかったことも書きました。
年次決算で詰まるのは、月次にない作業
年次決算が重く感じる理由は、作業の量よりも、月次では出てこない作業が年に1回だけまとめて来ることにあると考えています。詰まる場面は、だいたい次の3つに分かれます。
① 手順が残らない
実地棚卸、引当金、税金の計算、株主総会の準備。どれも年に1回しかないので、1年たつと細かい手順を忘れます。担当が代わっていれば、なおさらです。
② 外の期限が絡む
月次は社内で完結しますが、年次は税理士・監査役・銀行・株主など、社外の相手と期限が絡みます。外の期限は自社の都合で延ばせません。どこか1つが遅れると、その後ろが全部詰まります。
③ 同じ数字が複数の書類に入る
試算表、計算書類、法人税の申告書。同じ数字が別々の書類に入るので、どれか1つを後から直すと、ほかの書類とずれます。最後に全部の書類を突き合わせる工程を、日程の中に最初から入れておく必要があります。
年次決算チェックリスト(日程軸)
「何をするか」ではなく「いつまでにするか」の順に並べています。期間の目安は3月決算・6月総会の会社を想定したものなので、自社の決算日・総会日・申告期限に合わせて読み替えてください。会社の形(取締役会や監査役を置いているか等)によって不要な項目もあります。
A. 準備(決算日の1〜2か月前)
この段階でやるのは「思い出す」と「段取り」です。数字にはまだ触りません。
- A-1 前年の決算で使った資料(作業メモ・調整表・申告書の控え)を1か所に集める
→ 年1回の作業は手順が残らない。思い出す時間がいちばんの無駄になる - A-2 株主総会の日と申告期限から逆算して、決算の日程を引く
→ 決算の日程は、動かせない日から決まる - A-3 税理士・監査役・取引銀行など、外に出すものと期限を一覧にする
→ 外の期限は自社の都合で延ばせない。後から知ると全体が詰まる - A-4 銀行に残高証明書の発行を依頼する
→ 届くまでに日数がかかる。決算日を過ぎてから頼むと照合が止まる - A-5 実地棚卸の日時・範囲・数え方・立会者を決めて周知する
→ 当日に決めると数え直しが出る - A-6 固定資産の現物を確認し、廃棄済み・使っていない資産を洗い出す
→ 台帳だけに残った資産は、減価償却と申告の両方を狂わせる - A-7 今期に変わった税制・会計のルールを確認する
→ 前年と同じ処理が、今年も正しいとは限らない - A-8 精算されていない仮払金・立替金の精算を依頼する
→ 理由の説明できない残高を期末に残さない
B. 締め(決算日〜翌5営業日)
期末月の月次決算に、年次の作業を上乗せします。照合の出発点は現金・預金です。
- B-1 実地棚卸を行い、帳簿との差異を確定する
→ 差異の理由は、時間が経つほど分からなくなる - B-2 現金・預金の残高を、残高証明書・通帳と照合する
→ 照合の出発点。ここがずれると後が全部ずれる - B-3 売掛金・買掛金の残高を確認し、長く残っている債権を洗い出す
→ 回収の見込みがない債権は、貸倒れの検討につながる - B-4 請求書がまだ届いていない費用を見積もって計上する
→ 期末の計上漏れは、そのまま利益のずれになる - B-5 仮払金・仮受金など仮の勘定を整理し、残りは内訳を作る
→ 仮の勘定のまま決算書に載せない - B-6 期末月の月次決算を、いつもの手順どおりに締める
→ 年次の作業は月次の上に積む。月次を崩すと比較ができなくなる
C. 決算整理・税金(翌2〜4週)
年に1回しかない計算をまとめて行います。見積もりの根拠は、来年のために残しておきます。
- C-1 減価償却費を確定し、廃棄した資産の除却を処理する
→ A-6で洗い出したものをここで反映する - C-2 引当金(賞与・退職給付・貸倒れなど)を計上する
→ 見積もりの根拠を残しておかないと、翌年に同じ計算ができない - C-3 赤字が続いている事業・店舗などがないか確認する(減損の兆候)
→ 該当すると、資産の帳簿価額を見直す必要が出ることがある - C-4 法人税・住民税・事業税・消費税を計算し、中間納付額を差し引く
→ 中間納付の控除漏れは、納付額を大きく狂わせる - C-5 前年から大きく動いた科目について、理由を1行ずつ書く
→ 説明を求められたときに答えられる。自分の見落としにも気づける - C-6 決算日の後の大きな出来事(後発事象)がないか確認する
→ 内容によっては、決算書への反映や注記が要る
D. 申告・開示・株主総会
社外に出す段階です。出す前に、同じ数字がすべての書類で一致しているかを確かめます。
- D-1 試算表・計算書類・申告書の間で、同じ数字が一致しているか照合する
→ 同じ数字が複数の書類に入る。どれか1つだけ直すとずれる - D-2 監査役・会計監査人の監査に必要な資料をそろえる(設置している会社のみ)
→ 監査の日程は総会の日から逆算して決まる - D-3 取締役会で計算書類の承認を受ける(取締役会を置いている会社のみ)
→ 承認を受けてから株主総会の手続きに進む - D-4 株主総会の招集通知を出し、総会で計算書類の承認(または報告)を受ける
→ 通知を出す期限は、会社の形によって異なる - D-5 法人税などを申告・納付する(原則として事業年度終了の翌日から2か月以内)
→ 申告期限を延長している会社でも、延長した期間には利子税がかかる - D-6 決算公告を出す(株式会社)
→ 総会の後に出す。官報・電子公告など、定款で決めた方法による - D-7 時間がかかった項目・つまずいた点を「前年の記録」シートに書く
→ 来年のA-1で最初に開くのがこのシートになる
実際に効いたこと
27項目のうち、実際にやってみて効果がはっきりしたのは次の3つです。どれも、一度ずれたり迷ったりしたあとに決めたやり方です。
① 数字は、丸めた表ではなく元の試算表から取る(D-1)
報告用の表から利益の数字を拾って別の資料に書き写したところ、少しずれていたことがあります。その表は、いったん丸めた数字に別の項目を足す作りになっていて、見た目はもっともらしいのに、中身が元の数字と合っていませんでした。同じ数字を何か所にも入れていたので、直す箇所も何か所にもなりました。
それからは、資料に書き写す数字は丸める前の試算表から取り、丸めるのは最後に1回だけにしています。前年との差も、丸める前の金額どうしで出してから丸めます。丸めた数字どうしを引くと、表の中の差と、見えている数字どうしの差が1つずれることがあるからです。
② 手順のメモより、前年の「実物」を先に開く(A-1)
年に1回の資料は、手順のメモを頼りに作ると、前年に実際に出したものと形が変わってしまうことがあります。分量も構成も別物になっていて、作り直したことがありました。
いまは、書き始める前に前年の実物を開くようにしています。できれば2〜3年分を並べて、毎年変わらない部分と、ある年に変わった部分を見ます。形が毎年同じなら、新しく作らずに前年のファイルを複製して、数字と日付だけを差し替えます。
③ ファイル名ではなく「版」を確かめる(A-1・C-3)
計画の数字が入ったファイルが、同じファイル名のまま中身だけ更新されていたことがあります。年度の初めに決めた数字に合わせるべき場面で、期中に更新された版を使いかけました。どちらの数字を使うかで、赤字が続いているかどうかの判定(C-3)の結果まで変わりました。
それからは、ファイル名ではなく更新日時と中身で版を確かめ、どの版を使ったかを「前年の記録」シートに書くようにしています。翌年、同じ数字を出し直すときに迷わずに済みます。
効かなかった工夫も書いておきます
× 印刷した資料を、目で見て突き合わせる
最後の確認として、印刷した資料の数字を目で突き合わせていました。手間のわりに、本当に危ないずれはこの方法では見つかりませんでした。
1つは①の丸めです。表示が丸められているので、見えている数字どうしは合っているのに、中身がずれていました。もう1つは、Excelの計算方法が「手動」のまま保存されていて、一部の数字が古い値のままになっていたことです。数字に取消線のような表示が出ていて、最初は書式の問題だと思って調べていました。
いまは、目で見る前にExcelの計算方法が「自動」になっているかを確かめ、数字の照合は丸める前の元データどうしで行っています。目で見るのは、レイアウトや文字の抜けを確かめるときだけです。
担当が代わっても回るようにする
年次決算のチェックリストは、来年の自分か、来年の後任のためのものです。今年の決算を回すためだけなら、頭の中で足ります。
そのため、配布するExcelには「前年の記録」というシートを付けました。決算が終わった直後に、時間がかかった項目と、つまずいた点だけを書いておくためのものです。全部の欄を埋める必要はありません。1年後のA-1(前年の資料を集める)で、最初に開くのがこのシートになります。
書くのは、終わった直後がいちばん楽です。1か月たつと、何に時間がかかったのかを思い出せなくなります。
チェックリストをダウンロード
この記事のA〜Dをそのまま使えるExcelファイルにしています。無料・登録不要です。1枚目がチェックリスト、2枚目が翌年のための「前年の記録」です。
期末月の集計を、手作業で1枚にまとめていませんか
B-6(期末月の月次決算)やC-5(前年から動いた科目の確認)の前には、拠点・部門ごとのファイルを集めて1枚の表にする作業があります。30ファイルの月次集計を自動化して計測した実測値と、動くスクリプト一式をnoteにまとめました。
向いているのは「毎月、複数のExcelファイルを1枚にまとめている」「PowerShellを実行できる」方です。無料部分で、ご自分に合うかどうかまで判断できます。
それでも時間がかかる場合(PRを含みます)
チェックリストを回しても時間がかかるなら、確認の手順ではなく入力と集計そのものに時間を取られているのかもしれません。銀行口座やクレジットカードの明細を自動で取り込めれば、期中の入力が減り、B(締め)に入る前の状態が整います。
法人の決算を見据えるなら、弥生会計 Next
やマネーフォワード クラウド会計のように、明細の自動取込や決算書の作成に対応したものが選択肢になります。
選ぶ前に、去年の決算で何にいちばん時間を使ったかを数えてみてください。入力なのか、確認なのか、社外の返事待ちなのかで、選ぶべきものが変わります。返事待ちが原因なら、ソフトを入れても解決しません。
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よくある質問
Q. 月次決算のチェックリストとは何が違いますか?
月次は「毎月同じことを早く回す」ためのもの、年次は「年に1回しかないことを忘れずに回す」ためのものです。年次の作業は月次の上に積むので、期末月も月次決算のチェックリストはそのまま回してください(B-6)。
Q. 小さな会社でも全部必要ですか?
必要ありません。監査役や取締役会を置いていない会社では、D-2・D-3は不要です。Excelは不要な行を消して使ってください。逆に、A-1(前年の資料を集める)とD-7(つまずいた点を記録する)は、会社の大きさに関係なく効きます。
Q. 税理士に任せている部分はどう扱えばいいですか?
任せている作業も、税理士に何をいつまでに渡すかは社内の仕事です。A-3(外に出すものと期限の一覧)に、税理士へ渡す資料と期限を入れておくのがおすすめです。
Q. どこから手を付ければいいですか?
決算日の1〜2か月前なら、A-1とA-2から始めてください。前年の資料を集めて、動かせない日から日程を引く。この2つが終わると、残りの項目をいつやるかが自然に決まります。
※会計処理・税務・会社法上の手続きは、会社の規模・形態・定款によって異なります。個別の判断は税理士・司法書士等の専門家にご確認ください。
まとめ
- 年次決算が重いのは、作業量よりも「手順が残らない」「外の期限が絡む」「同じ数字が複数の書類に入る」から
- チェックリストは「何をするか」ではなく「いつまでにするか」で並べる
- A. 準備では、前年の資料を集め、動かせない日から日程を引く
- B. 締めは、期末月の月次決算をいつもどおり回すところから
- D. 申告・開示の前に、試算表・計算書類・申告書の数字を突き合わせる
- 終わった直後につまずいた点だけ記録する。来年の自分が最初に開く資料になる
- 効いたのは元の試算表から取る・前年の実物を先に開く・ファイルの版を確かめるの3つ
- 印刷して目で突き合わせる確認は効かなかった。丸めと古い値は、目では見つからない
年次決算は、年に1回しか練習できない仕事です。今年つまずいたことを1行残すだけで、来年の準備はかなり楽になります。

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